人類の生活を豊かにする発酵食品

微生物を初めて世に知らしめたのは、オランダの科学者・レーウェンフックです。
17世紀後半に顕微鏡を発明し、「この世界には、肉眼では見えない無数の生物が存在する」ことを発見。卓越した観察力で、細菌やカビなど、顕微鏡下でのみ出会える新しい生物を次々と発表していきました。

このように微生物の活動を研究することで、多くの科学者たちによる論争が起こります。「微生物は、どのように発生するのか」という、生命の起源を巡る論争です。

当時は、古代ギリシャ時代にアリストテレスが提唱したとされる「自然発生説」が、当然のことと信じられていました。
自然発生説とは、「昆虫やダニなどの微小な生物は、親となる生物がいなくても、泥や汗などの無生物から自然に発生する」という論で、無生物を生物にする「生命の素」が、空気中に浮遊していると考えられていました。微生物の研究は、この説への疑問に火を付けたのです。

「白鳥の首フラスコ」による実験

自然発生説を巡って賛否双方の科学者が様々な実験を行いましたが、論争に決着を付けたのが、フランスの天才科学者で「近代微生物学の祖」と言われるパスツールです。

パスツールは、「白鳥の首フラスコ」と呼ばれる、その名のとおり白鳥の首のような形をしたフラスコを用いた有名な実験を行いました。
口先を横向きのS字型に伸ばしたフラスコの中で、肉汁を煮沸した後に放置します。すると、「生命の素」が含まれるはずの空気は通るのに、微生物はS字の口先の底の部分に溜まってフラスコ内部に到達できず、肉汁は腐敗しません。フラスコのS字の口先をごく短くカットすると、微生物が侵入して、にわかに肉汁の腐敗が進みました。
「微生物の発生には、親となる微生物が必要である」。21世紀には当たり前の事実がこの実験で証明され、当時の世界の常識を変えました。パスツールは、「すべての生物は生物から発生する」という言葉も残しています。

最も有益で最も神秘的な生命

パスツールは生命の問題に答えを出すだけでなく、微生物を人間に役立てるための研究でも功績を残しました。

ワインの安定的な製造法、ワクチンの開発など、発酵を科学的な産業の表舞台へと導いたのです。
その後も、その志を継いだ多くの科学者が研究を重ね、発酵は現代のバイオ科学へと繋がります。現代社会において、微生物は最も有益な生命のひとつかもしれません。

多くの研究者が、「研究がどれだけ進んでも、むしろ研究すればするほど、微生物という生き物の不思議は深まるばかり」と感じているそうです。
その不思議の中には、人の暮らしに役立つ、人の暮らしを変えてくれる新しい何かも含まれているでしょう。
無限の可能性を探る研究は、まだまだ続きます。