経営面では何度も倒産の危機がありましたが、様々な人に助けられながら、米の研究による新素材の開発は着実に成果が出ていました。
その中でも徳山がもっとも力を入れて研究を重ねてきたエキスこそが、現在、勇心酒造を代表する素材となった「ライスパワーNo.11」です。
アトピー患者の役に立てたい
商品開発からステージを変え、さまざまな発酵を試し、素材開発を行う中で乾燥肌に効果がありそうなエキスが見つかります。
徳山は幼いころ、風呂でぬか袋を使っていた祖母の肌は特別な手入れをしていないのにツルツルだったことを思い返し、
「米には肌を健康に保つ力があるに違いない。」
そんな思いを強くしました。当時、アトピー性皮膚炎の急増が社会問題化しており、肌を健康な状態に導くことのできるエキスがアトピー患者の役に立てられないか、と徳山は考えました。
新しい素材を世に出すための研究を行うには大学の医学部との共同研究が必須になります。研究に協力してくれる皮膚科医を探していた徳山は徳島大学医学部付属病院皮膚科の荒瀬誠治教授の元を訪ねました。
当時、徳島大学にはアトピーに悩む大勢の子供たちが治療に訪れており、荒瀬教授は激しいかゆみに苦しむ子供たちの精神ケアの必要性を強く感じていました。また、科学的根拠が不明の民間療法やアトピービジネスがはびこることにも不安を感じていたのです。
そんな荒瀬教授の思いと、ライスパワーエキスをアトピー患者に役立てたいという徳山の思いが一致し、二人三脚による共同研究が始まりました。
基礎研究で明らかになる「米の力」
さっそく荒瀬教授は基礎試験に取りかかりました。
勇心酒造で発酵し、抽出したエキスが徳島大学に運ばれ臨床実験が行われ、その結果をもとにエキスに改良を加えるという作業が繰り返されました。研究は昼夜を問わず続けられました。
その臨床実験を進めるうちに、ある種のエキスが皮膚の深層部(基底層)まで浸透して、皮膚に水分を保つ力を高める効果を発揮することが分かってきたのです。
そこで荒瀬教授は次の臨床試験でアトピー皮膚の人にこのエキスを配合したクリームを腕に毎日塗ってもらい、皮膚の水分保持能がどう変化するかを調べました。すると、4週間後には健常な皮膚の値を上回るほどになったのです。
――これは使える!
荒瀬教授は確信しました。
この時点で新素材は、ライスパワーエキス研究開始から11番目に開発されたエキスとして「ライスパワーNo.11」と名づけられました。その後の研究で、ライスパワーNo.11には皮膚に水分を保つために重要な「セラミド」を増大させる働きがあることが分かります。一般的な保湿剤は皮膚の表面に付着し、肌をしっとりさせますが、皮膚内部に作用する効果はありません。しかし、ライスパワーNo.11には皮膚が持つ本来の力を取り戻す機能があったのです。
ライスパワーNo.11は研究段階から、医薬部外品の新たな有効成分として認めてもらうため、厚生労働省への申請に向けて動き出しました。